さくらぞめ/亜樹
 
桜の木はこの町で一番大きな桜の木だ。何処の桜の下を掘るか相談したときに砂名は真っ先に此処を挙げた。僕も少しも異論が無かった。
 僕の家からも沙名の家からも近いこの場所は昔から恰好の遊び場で、夜中に忍んでくることも、少しばかし慣れていた。
「琥太、変わろうか?上着貸したげるよ?」
「駄目だよ。そんないい服、汚したら父さんに怒られちゃう」
「いいのよ。だって私のだもの」
「……之村さんのだろう?」
「だから、私のなのよ。あの人のものは全部私のものなんですもの」
 ぱさり、と音がして視界が暗くなる。自分の頭に沙名の羽織っていたジャケットが被さっていた。赤い、花の刺繍の施されたジャケットはそ
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