さくらぞめ/亜樹
てしまおう。ねえ、琥太。これは、之村さんの家には、持っていけないもの」
「・・・・・・そうだね」
沙名の目は、少し潤んでいた。寒いせいだと思った。寒いせいにして、沙名が貸してくれていた上着を返し、ぎゅうと其の手を握った。
ああ、やっぱりだ。こんなに、こんなに凍えて、震えている。
僕は自分が来ていた上着の釦をちぎった。赤銅色をした、少し、重たい其の釦を、沙名のビー玉の横に置く。
沙名が笑ったのが、気配でわかった。
「琥太。琥太はね、南の国に行くのね。琥太は優しいもの。きっと誰も殺さないし、きっと誰にも殺されない。南の国で、桜と碧い海を見て、きっと、このビー玉のような、きれいな青
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