さくらぞめ/亜樹
ただただ掘っていた。
いつの間にか、穴は、本当に酷く深い。
深く、暗い。
まるで本当の墓穴だ。
けれど此処に死体はいない。
掘っても掘っても、出てくるのは、仄かに苔臭い、湿った黒い土ばかりで。
僕は一体、何を埋めるつもりで、この穴を掘っているのだろうか。
「琥太」
沙名が僕を呼ぶ。
短い、けして大きくは無いその呼びかけは、いとも容易く僕の耳に届く。
「……何?」
「……降りて、いい?」
「いいよ」
僕は手を伸ばす。沙名に向かって。沙名はその手を取って、ゆっくりと足元を気にしながら穴の中へと入った。
沙名は笑う。当たり前のように。
だから僕も笑
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