さくらぞめ/亜樹
 
ら、小母さんは酷く喜んでいた。
 餓えるほど貧しいわけでもないが、何があるかわからないから。蓄えはあったほうがずっといい。
 其れは僕のうちでも云える事だ。
 足の弱い僕の父さんは仕事へ行けない。戦争なんてもっての他だ。
 父さんの父さんが残した蓄えを少しずつ食い潰しながら僕等は生きている。
 父さんのささやかな内職は、父さん自身の食費は稼げても、育ち盛りな僕の分には足りようもない。
 僕が戦争に行けば、御国から保証金も出るし少なくとも食い扶持が減る。父さんはずっとずっと楽になる。
父さんの世話はもう隣の小母さんに頼んできた。昔から何かと僕たち父子を気遣っていてくれた小母さんは、少し
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