しおまち/亜樹
 
かりました、お義父さん」
余之介は断らなかった。
 それはきっと、跡を継ぐという気負いからだろうと、余之介は思った。
 胸の奥に燻るざわめきは、それに付属した不安であるように思った。
 養父は酷く満足げに笑い、有難うと礼を述べた。それから一週間程地図を読んだり薬の用意をしたりの仕度をして、余之介は家を発った。
 紗枝は黙って手を振っていた。

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 家を出てから一月ほど経っていた。背中の荷物は一つも減っていない。
 今までに横切ったさほど裕福でない農村では、薬の需要はほとんど無かった。そんなものを買う金は小作料の支払いに消えてしまう。最近は日照りも台風も来てはいな
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