しおまち/亜樹
いないから、多少はそれでもましな方だ。
ざくざくと踏み固められた小道を歩き、海がどんどん近づいてくる。そして不意に、余之介は海際の岸壁に、黒い影があるのに気がついた。進むにつれて輪郭がはっきりしてくる。
松だ。ごつごつとした岩肌にしがみつくように、松が一本生えていた。
その木はひどく低く、海に向かって手を伸ばすように枝を広げていた。どこか一人取り残された迷い子のような印象を受ける。
更に近づくと、その木の下に更に小さな影を見つけた。人がいる。それもどうやら老人のようだった。
「じいさん、釣れるか?」
釣りをしているのだろうと検討をつけた余之介はできるだけ大きな声で呼びかけた。
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