しおまち/亜樹
 
紗枝という名前と、少々出過ぎた前歯を気にして恥ずかしそうに口元を隠して笑う癖と、朝の味噌汁をちょうど良い塩梅に仕上げることのできる料理の腕前だけだ。
 これで本当に夫婦と言えるのか、余之介には甚だ疑問である。
 養父にこの旨を伝えれば、おそらく無理強いはしまい。何しろ養父は妻と仲がいい。元々が親類であるのだから当然だろうとは思うが、時々余之介は紗枝が自分の嫁に来たのか、養父の話し相手に来たのかわからなくなることもある。
――紗枝に寂しい思いをさせたくない。
 その一言でこの話が延期されることは、まず間違いなかった。養父の足腰は先も述べたようにあと十年は心配要らない。
けれど。
「わかり
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