しおまち/亜樹
 
のときにも一応行商の仕事はしている。そこそこ売れた。
 けれどそれはあくまで近場で、遅くても半月で帰ってこれる距離であった。一方今まで養父が言っていた仕入れ先は、一度出かければ半年は戻れないような、余之介とっては異郷とさえ思える遠い村である。
 断る理由が無いではなかった。なんといっても余之介は妻を娶ったばかりなのだ。
半ば養父の跡を継ぐための結婚であったとはいえ、養父の姪は頭の良い、控えめな、けして不美人といった顔つきではない女だ。余之介にこれといった不満は無い。むしろ彼女についてもっと知りたいという欲求さえある。
 なにしろ現段階で余之介が自分の家内について知っていることと言えば、紗枝
[次のページ]
戻る   Point(0)