しおまち/亜樹
も越中富山の薬売りのように各家ごとに置き薬をしているわけではない。預けておいた薬から使った分だけの代金を後から徴収するそのやり方は、養父と自分だけでは到底手が回らない。同じ庄屋や仕入先に一年に一回必ず顔を出すのかといえばそうでもない。
だから他所が持っているような土産の浮世絵や紙風船なぞはついぞ持ち歩いたことはないし、薬の入った紙袋にしても薬の名と養父の名の判が押してあるだけのそっけないものだった。
それでも問屋に卸すよりも行商の方が羽振りがいい地域もあるらしいから、どちらが主なのか怪しいものだと余之介は思う。
余之介は今まで実家を含めた近場の仕入先にしか行ったことがなかったが、そのと
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)