しおまち/亜樹
自称年寄りは、今朝も早よから裏山の天辺まで山吹の葉を摘みに行って帰ってきたところなのだ。一度余之介もその場所を教えてもらいはしたが、とてもではないが昼までに行って戻れる道には思えない。穏やかでいかにも学者然とした物腰を裏切って、養父の足腰は限りなく強靭だ。
「だから今年からは遠方の仕入れ仕出しも余之介君に頼もうと思って」
いいかな、と養父は年齢に似合わず大層可愛らしく首を傾げた。
養父は薬師で薬屋だが、別に山奥に見せ棚を構えているわけではない。
作った薬を庄屋に売り、収入を得、薬の原料を買う。薬を売りに、もしくは薬草を仕入れに行くときにはついでに行商めいたこともしている。といっても越
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