しおまち/亜樹
 
を立てぬように外へと向かった。
 慣れぬ間取りに数回つまずきはしたものの、何とか野外へと出、殆ど勘に頼って井戸なり川なりを探す。
 けれど、余之介が思い浮かべたような水場は、ついぞ見当たらなかった。
 ぐるりと茶店の回りを回ろうとしたところで、いっそ潔く女に聞きに行くかと踵を返す。
 物音を頼りに一階の奥を覗けば、不意に声が聞こえた。
 足を止めて耳をそばだてる。
 障子一枚を隔てた先から、その声はした。――女の声だ。その合間に、男の声も聞こえる。
 そして、其れはどちらも――ひどくなめかしい艶を帯びていた。
 かすかに頬に朱が差すのを余之介は感じた。この奥で何が行われているかは、
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