しおまち/亜樹
 
の手を見る。
 次第に暗闇になれた目は、徐々にその輪郭、刻まれた皺を知覚する。
 起き上がって外を見る。
 海は見えない。
 波音も聞こえない。
 ただ、暗い。
 山の夜とも違う。闇だ。海から来る何かしらが、空気にまで混じったような――。
 そこまで考えて余之介は首を振った。まだ少し寝ぼけているらしい。
 もう一度横になろうとも思ったが、一旦高ぶった神経はなかなか収まってはくれなかった。仕方なしに水の一杯でも呑もうかと、階下へ下る。茶店の女はまだ起きているらしい。店の奥で微かな物音がした。一瞬、女に水の場所を聞こうと思ったが、旦那の留守に女の寝床に上がりこむのが気に引け、直力音を立
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