しおまち/亜樹
ただろうか。
思い出そうとしたが、同時にそんな昔のことは当てになるまいとも思う。
妻の隣には女児がいる。
自分にも妻にも養父にも似ているようで、似ていないようでもある、そんな女児が、妻の着物の裾を握り、睨むように此方を見ていた。
妻は青い海を映した目で、自分を見ている。
妻の目の中で、年老いた自分は青い海に浮かんでいる。
――ざ、ん。
「――」
自分は妻の名を呼んだ。その声は波に浚われたが、妻には届いたようだ。
妻は笑った。恥ずかしそうに、寂しそうに切なそうに、口元を隠して笑った。
そんなことせずとも良いと、常々自分は思っていた。
前歯が出ていよ
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