しおまち/亜樹
。
切ないも虚しいも通り越し、なにやら馬鹿らしくなった。無理に大口を開け笑う。いっそ自分もあの鯨のように、海に解けてはしまえまいかと、目を瞑ってみた。
――どぉん。
――ざ、ざざん。
波の音と太鼓の音が自分の鼓膜を交互に叩く。
溶けてはくれぬ体は波に叩かれ、曖昧に凡庸に、ただ浮かんでいる。
沈みもしない。
流されもしない。
何処へもいけない。
――どぉん。
不意に波でない何かが頬に触れた。
微かに温もりに惹かれるように目を開く。
目の前には妻がいた。
皸の出来た荒れた手で、自分の頬を撫でている。
彼女の手はこんなに荒れていただ
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