しおまち/亜樹
あんなに喜んでいる村衆に対し、罪悪感を抱いているのだろうか。逃がしたのは自分だ。あの鯨を、再び海の一部に戻したのは、紛れもなく自分だ。申し訳ないと、そう思っているのだろうか。
――違う。
そんな、しみったれたものではない。
自分は知っているのだ。あの太鼓が。あの音が。濱が潤う祝いの音などではないことを。
アレは弔いの音だ。
鯨ではない。海の一部が又、欠けていった弔いの音だ。
そのことに思い当たるや否や、あの村衆が哀れでならないように思えた。
彼らもまた、幸福ではないのだ。
彼らは葬式の客だ。そのくせ場にそぐわない陽気さを振りまいている。ただ、哀れだ。滑稽だ。
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