しおまち/亜樹
 
まったのに、そうとも知らず祝っている。

――どぉん。

 太鼓が鳴った。

――どぉん。どどん。どん。

 低い、そのくせよく響くその音は、濱を越え、自分を越え、海に遥かに飛んでゆく。
目を凝らすと、濱には女児がいる。太鼓の音にはしゃぎ、大人に混じって踊っている。
 濱の人間は皆笑っている。皆幸福そうである。当たり前だ。祭なのだから。鯨が、取れたのだから。

――どぉん。

 けれど、どうしたことだろう。この太鼓の音は少しも自分に響かない。自分は、少しも、幸福では、ない。如何してだろう。皆は、あんなに楽しそうなのに。
 鯨が獲れなかったと知っているからだろうか。

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