しおまち/亜樹
 
。海と同じ色をして、そのくせ海に溶け切れず、さまよう大きな不純物。化け物のような魚。濱に祭をもたらす使者。
 ゆっくりとゆっくりと其れは近づき、終いには自分のいる岸壁の真下にまでやってくる。
 いつの間にか自分の手には刃物が握られていた。お世辞にも大きいとはいえない、けれどしっかりと手になじむ刃刺包丁。
 考える間もなく、体が勝手に動く。

――どさ。
――ざく。ぶしゅ。がり。がりり。

 崖の上から跳び降りて、その背中に包丁をつきたてる。鈍い音を立ててその皮膚が裂け、血が噴出す。それも構わず深く深く包丁を突き立てて、横に引く。時折骨に当り、硬質な、無機質な音がした。

――ざ
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