しおまち/亜樹
ている。
どうして自分はこんなところにいるのだろう。手を見ると、深く皺が刻まれ、日に焼けて、まるで枯れ木のように細い。そのくせ爪は分厚く白濁色に濁って、歳を経た樹木の皮のようにかさついていた。
――ああ、そうか。
自分はあの老人だ。あの松の下で、何かを待っている、あの老人だ。
ならば、と目を凝らして海を見る。
自分があの老人ならば、待たねばなるまい。鯨か、女か、それ以外の何かを。
それはきっと海から来る。あの、得体の知れない生き物が産み落とすのだ。
――ざぁん、ざぁ、ぁぁ
程なくして暗い海の端にぼんやりの小山のような塊が蠢く。
なるほど、アレが鯨だろう。海
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