しおまち/亜樹
類のものだろうから。
美しい幻に抱かれて、余之介は目を瞑る。
泥のような眠気がいとも容易く余之介を飲み込んだ。
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――ざぁ、ざあぁぁ。
――ざ、ざざぁああぁああぁ。
鼓膜に、波の響きが映る。
美しくはない、厳しい音だ。
一波波が寄せる度、松のしがみつく岩壁が抉られるような気がした。
眼下に見える海は黒い。ただただ黒い。
昼間とは比較にならない気味悪さを伴って、ただ寄せて、ただ返す。
得体の知れない、大きな生き物。
――ざぁ、ざざぁあぁ。
見上げると月が照らす微かな薄闇に、ひしゃげた松が濃く影を落としてい
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