しおまち/亜樹
に違いない。
余之介の案内された部屋は、まあ上等な部類に思えた。一番安い部屋でいいと余之介は言ったのだが、二部屋しかないらしく、もう一部屋は既に先客があるらしい。一応その先客に挨拶の一つでもしておこうかと思ったのだが、間の悪いことに留守のようだった。部屋の前でぼんやりと帰ってくるのを待つのも馬鹿らしいので早々と自分の部屋に引き上げ、かび臭い布団の上に横になった。破れた障子戸の隙間から海が見える。波の音までは流石に届いては来なかったが、潮の香りはするような気がした。幻想かもしれない。あの女の濱の祭りのように。自分にとっての大黄の臭いのように。
きっとあの老人とって、海とはそういう類の
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