しおまち/亜樹
 
が映っている。余之介が見たそれと違い、ひどく澄んだ青色をしていた。釣られるように余之介も海を見たが、やはりそれは青とはいえぬ、形容しがたい重たい色でしかない。
 女の見ている海が青いのだろうか。
 それとも女の目に映った海が青く変わるのだろうか。
「姐さん、寂しいのかい」
「ああ、そうだねぇ」
 胸に生まれた些細な疑問を振り払おうと、余之介が発した問いに女は微かに笑った。今までの大きく口を開けた、どこか乾いた笑いではなく。
 ――まるで紗枝のような笑い方で。
「寂しいねぇ」
 諦めともつかない声を伴って、細められる目を見ながら余之介は思った。
 きっと紗枝の目に映る海も、青いに違
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