しおまち/亜樹
 
ということにどこか余之介は現実味を感じない。紗枝のせいではない。自分の子供という存在を想定するのが、まず余之介には困難なのだ。
 子供が嫌いなわけではけしてないが、自分の子供となると話が違う。それは今まで余之介が出会ってきたどの子供とも違う。全くの未知数だ。鯨よりもタチが悪い。
 そんな思考を走らせて顔を顰める余之介の様子をどう解釈したのか、女は一言早く帰っておやりよと言うと一旦茶店の中へと帰り、急須と湯飲みを持って戻ってきた。再び腰をかけると女は、あの爺さんはさぁと話題を元に戻した。
「まあ、お客さんがさっき言ったのが一番近いんだろうね、多分。あの爺さん美人の嫁さんと可愛い娘がいたらしいか
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