しおまち/亜樹
いから」
饂飩の丼は疾うに空だった。女が白湯かお茶か判別つかむような液体を湯呑に注ぐ。一つを余之介に渡し、もう一つに女は躊躇なく口をつけた。もはや仕事をする気はないようだ。
ここしばらく物を喰うときの他口を開いていない余之介にとって、この良く笑う女との会話は特に苦痛ではなかった。黙って女に習い湯呑に口をつけると微かに塩の味がする。どうやら白湯らしい。
「私は見たこたぁないから、実際どうだったかは知らないけど、仲が好い夫婦だったんだと……爺さんが漁に出てる間は機織って、寂しいとも切ないとも言わない、出来た人だよねぇ、真似出来そうもないやね」
ぼんやりと女は海の方を見た。その目には海が映
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