しおまち/亜樹
せあれだろ。呆けた頭で若い時の思い出に浸って、昔の女のひゅうどろでも待ってんだろ」
言ってからそれが随分しっくりくるように思った。あの時、余之介方を向いた目に感じた微かな違和感が払拭されるような気がする。あれは余之介に何かを期待していた目だ。何かに焦がれていた目だ。それがこの世のものでないのなら、なるほどこれほど相応しいものもあるまい。
余之介の言葉にそうだねぇと、女も控えめではあるが同意を示した。
「まあ、色々言う奴もいるがね。村の年寄りには鯨見張ってるって言う奴もいるし」
「くじら?」
「昔は捕れてたんだとこの浦でも。今は潮の流れが変わったかなんかでとんとご無沙汰でね。干上がる一
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