しおまち/亜樹
る一方さ」
そんなものかと、余之介は思った。
同時に自分の浅はかさを知る。農村と漁村は違うのだ。
農村はまず天候と戦う。次に害虫、害獣に頭を悩まし、病の予防に躍起になる。
漁村であれば、何はさておき獲物がいなくては話にならぬ。どんなに気が利いた仕掛けも丈夫な網も、掛かる魚がいなければ無用の長物でしかない。日照りでなかろうが、大水が起きまいが、漁村の危機はいつでも簡単に訪れる。
共通するのは自分たちでは如何しようもないという、大昔から決まりきった人の無力さだけだ。
「あたしが二つになった年が鯨の採れた最後の年なんだと。年寄りどもは今でもよく言う
よ。濱の祭には鯨がいるって。なんと
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