しおまち/亜樹
 
胸を張って女は誇らしげに笑った。
 そんな風に言い切られると余之介としては苦笑するしかない。江戸や堺まで行けば話しは変わるが、地方ではやはりまだまだ所詮薬は高級品、もっと言ってしまえば嗜好品という認識が強い。
――有ればなんとなく安心だが無くても別に困らない。
 その程度のものだ。別に余之介も本気で売りつけるつもりも無かった。
 余之介が『客』として認識しているのは食うに困らない程度の小金持ちか、生きることに貪欲な大金持ちか、今まさに苦しんでいる病人だ。
 言っても余之介の、というか養父の薬は小判一枚米なら一俵というような高級品ではけしてない。ピンきりではあるが、一番安い薬一回分ならその
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