しおまち/亜樹
 
その日の晩飯のおかずを一品減らせば裕に買える。効き目も概ね好評である。阿漕な商売をしているつもりもない。
 女に買うかと問いかけたのは、余之介なりの会話に入る前挨拶のようなものだ。それで本当に売れることもあったし、売れないこともあった。女も商売柄そういった会話に慣れているらしく、さほど本気にしていない。ありふれた儀式の一つでしかないのだ。
「そういやぁ道脇の松の下に妙な爺さんがいたが、ありゃなんだい。俺は山育ちだからようはしらんが、ここいらじゃ爺婆は山じゃなくて海に棄てんのかい?」
「あら、いやだねぇお客さん。あんな道の側に棄てて何になるのさ。あんよがあるなら帰ってこれるさね。大体あんなとこ
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