飛ぶ鳥,落ちる鳥(鋭角と季節のはじめ、台風の間)/はるな
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不幸な物事は、存外世の中に散らばっている.出されない手紙や、色を知らない絵筆や、発酵に失敗したパン種、螺子の切れた時計、手付かずで冷め切った紅茶、蕾のまま落ちた雛菊.それらはどうしてこの世にあるものとして生み出されたのだろう、何のために、どの時間のために、それらは存在したのだろう?
かなしみを分け合うことを、時には優しさと言い、それはたしかに必要な歯車のひとつです.優しさや、それに付随するかなしみは、どうしても必要なもののひとつです.でも、あまり心配することはない.かなしみはなくならない.だからたぶん優しさもなくならない.ひとは、分け合えねば生きていかれないから.わざわざ手を差し出す愚
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