クロール/ホロウ・シカエルボク
 
れなかった記憶なのだ
窓枠に身体をもたせてそのさまをずっと見ていた
あいつは北に向かって泳いでいたが
なぜそうしてるのかなんてもう覚えてはいないのだろう


いつか風が吹いてくる
ひとつに意識の終わりを告げるみたいに
いつか風が吹いてくる
長すぎるエンドロールをカーテンで終わらせるシアターみたいに
夜の風は冷たく
現世の断層に痺れた身体をゆっくりと覚ましてゆく


目を閉じるとなお泳ぎ続ける亡霊が見える
それはまだあそこにいるのか
それとも俺の中に移動してきたのか
辿りつこうとするそいつの顔がはっきりと見える
「眠れ」と神は言う

[次のページ]
戻る   Point(2)