うたたね/mugi
 
が水平線に沈みきる、その日向色のほそい
糸がふつり、と、とぎれてやがて観覧車が地上にもどって
くるころに、あなたのすがたはどこにもみあたらなかった、
わたし(わたしと呼ばれていたその男)は、まだうす明る
い砂浜をとぼとぼと歩いている、男は、いま、みずからが、
記述される対象であることを知っている、ふと、どこかで
ロケット花火の破裂するおとがきこえる、正確には、男は
それをきいたと記述されている、わたしは誰だと男はいっ
た、つまりそのように記述されたのだ、またひとつ花火が
破裂する、近所のガキどもが通りをはさんだ向うがわの公
園ではしゃいでいる、わたしはタイピングの手をやすめ煙
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