うたたね/mugi
 

草にひをつけた、キッチンでインスタントコーヒーをいれ
部屋にもどる、ふたたびディスプレイにむかい、男は、ポ
ケットからマールボロをとりだし、火をつけたとキーをた
たく、するとまたとりがおちた、しばしの静寂があり、男
はゆっくりと煙をはいた、すでに濃紺にそまったそらが、
空腹の胃のようにゆるやかにうねり、やがて、降りはじめ
の雨のように、数羽のとりがおちた、またひとつそらがう
ねると、たえかねた無数のとりたちがいっせいに落下をは
じめる、ひとつひとつが流星のように輝き、そらは焼きつ
くされようとしている、それは光で、音で、目をあけてい
られないほどの暴力で、血で、色彩で、都市や網膜や、記
憶で、生まれてくることの途方もないエネルギーで、つま
り死んでいくことのみすぼらしさで、目をあけていられな
いほどの閃光のなかで、男はさよならといった、わたしは
彼の瞼のうらにsayonaraとタイピングした、またひとつ花
火が破裂する、銃声のように渇いたおとで、








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