時間の流れを動力とした遠心分離装置の性能とその顛末/Six
 
ものもある
 恐らく最初はインキのどぎつい赤に目を奪われたのだろう
 とAさんは思い当たった
 そして今、
 よく見ればその文字の形に
 Bさんの彫刻刀の熱を感じる
 ような気がしないでもない
 あるいは
 判子を押し付けるBさんの手の圧力
 そういえばあの時
 (「あの時」というのがどの時であったのか
  そこまで思いを巡らす余裕は
  Aさんには無かった
  敢えてAさんを擁護するならば
  それはAさんを襲う眩暈のためである)
 BさんがAさんの方に手を伸ばしながらしりもちをついた
 あのBさんの手は
 一体どこに向かっていたのだろう
 Aさんはふと後ろを
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