五十日目の日記/縞田みやぎ
 
座り込んでもう立てないでいるのを,車が人を引っ掛けておいて逃げるのを,水産のトラックの積荷が腐って恐ろしい匂いの汁がぼたぼたと垂れるのを,小奇麗にしたボランティアたちが物珍しそうに記念写真を撮っていくのを,全て見てみぬふりをして通り過ぎた。あの日の火事で避難所ごと燃えた人たちがいた。波に飲まれた避難所がいくつもあった。保育所はお昼寝の時間だった。幼稚園はバスで帰る途中だった。気づかずについた足の傷が,汚水で膿んだ。体がみるみる薄くなって下着ががぼがぼになった。避難所はどこも浸水したままで泥だらけでぎゅうぎゅうで足の踏み場もなくて人が歩く廊下に年寄りの頭がありそして何も足りていなかった。うちの地区の
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