五十日目の日記/縞田みやぎ
 
僕の腕力ではどかすことができなかった。なんとか土手までたどり着くと,やっと水から上がることができた。昨夜津波を見た河を見下ろす。水かさがまだまだ多い。川岸は家の中の全てをかき混ぜてひっくり返したような瓦礫の山。うつむいて水に伏している背中と,水から突き出した手とを見た。救命ボートが打ち上げられていた。てぶらの人々があてどなく土手をうろうろして呆然と水没したまちを眺めていた。つながれていない犬が歩いていた。犬の散歩をしている人がたくさんいた。携帯は圏外になっていた。河原の公園は土手とのつなぎ目からもぎとられて土地そのものが無くなっていた。道路に打ち上げられた魚がまだぱくぱくと口を開けていた。昨日水を
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