五十日目の日記/縞田みやぎ
 

 相方と言えばと思い出して彼の部屋を覗く。天井までの書棚・CD棚が突っ張りが外れて倒れ,膝上ほどの洪水になっている。これは現場を保存して彼が帰ってきた時に見せてやろう。
 日が暮れてきた。ありとあらゆるサイレンがずっと聞こえているが,それはどこか遠く,静かだ,と思った。そういえば津波はもう収まったのだろうか。手回しラジオを首にかけ,財布と携帯,先ほどのクラッカーを持ち,外に出た。食べ物も水も無いので,近所の商店まで行って何か買えれば,と淡い期待もないではなかった。
 静かだ。かしゃんかしゃんと音がする方を見ると,屋根に上がり,くだけた瓦を放り投げている人がいる。どの家も電気はついていない。
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