五十日目の日記/縞田みやぎ
 
は,おそろしいほど静かだった。津波は来ていない。世帯数の多いアパートだが,車がいない。隣の住人が出てくる。もうみんな逃げたのだという。そりゃそうだ,ここは運河と河に挟まれた土地だ。運河があふれていたこと,道が塞がれてもう逃げ場がないことを告げる。隣の家は子供も父親も帰宅していないのだという。「お互いに猫たちもいるし,2階だし,家にいましょう。何かあったら声を掛けて。」と言い合い,自宅のドアを開ける。
 途端,ドアに寄りかかっていた荷物がなだれてくる。ああそういえば地震も酷かったのだっけ。入れない。体重をかけて押し戻す。何もかもが落ちている。いやもともとが散らかっているのだからしょうがない。CDと
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