五十日目の日記/縞田みやぎ
 
は。
 運河ではない。これは海だ。全部海だ。通常であればきちんとおさまっている水が,普段より2mほども高い水位でもって水門も川岸も超えてあふれ出している。咄嗟にブレーキを踏む。目の前の道は,右手の運河からあふれ出した水が住宅地へ向けてどうどうと流れている。ほんの数秒車を停めたが,その間に,ガードレールの下を通っていた水がガードレールの下端に当たりしぶきを上げ始める。だめだ。ここにいてはいけない。目指そうとした橋はまだ水に飲まれていない。あそこまで行けば。
 道が運河側を上に斜めになっているので,左車線は水がより深い。思い切って右車線に入りガードレールぎりぎりまでに車を寄せる。あせるな。エンジン
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