2277-01/雨伽シオン
みと出会った。花冷えの雨が降る夜だった。橋の上で制靴から足を抜きながら、なぜ自殺者は死ぬ前に靴を脱ぐのだろうと考えていた。そこにきみが通りすがったのだった。春は死にたくなる季節ですね。挨拶代わりにそう云った私をたしなめるでもなく、憐れむでもなく、きみはそうだねと微笑んでくれた。
それまで色褪せて朽ち果てていた私の世界は息を吹き返した。雨音が鼓膜を震わせ、街灯に照らし出された雫が銀色に輝き、濡れたアスファルトの湿っぽい匂いが鼻孔をついた。きみのいる世界で私は生きていたくなった。きみの心に私という存在を刻みつけられるなら、たとえ憎まれようとかまわなかった。私がきみの唯一になれないのなら、いっそきみが
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)