ひとり生きてゆく(ということ/アラガイs
 
濡れ
ほろろ蒸す朧気な風には少しの乱れもない
後になってそれを確かめるには
もう遅すぎた 。

家の門から見える四隅の角に、深々と帽子を被った白いコート姿の男が今日も立っている 。
歩きだすと男は近づいて来て、下を向いたままお金を少しわけてくれと懇願した 。
黒皮の手袋はイニシャルが金糸で縫い込まれた上等なブランド物だった
首を振りながらわたしは小走りに逃げだしたが、 遠近を確かめるように長い顔を少しもち上げて、男は最後まで此方の行方を見極めていた 。

水道のメーターはあがることもなく
例によって蛇口から水は滴り落ちていた
米山くんの死はけっして苦し
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