菜の花のこと/はるな
らなくなかった。自分で自分のしるしがわからなくなかった。それは、見えないけれどだれの頬にも刻んであって、自分を他の誰かとは間違えたりしなかったのに。そんなこと、考えもしなかったのに。いまはとてもしるしが必要で、それを見たり触ったりしていないと、ここがどこで、自分がだれなのかわからなくなってしまう。わたしの耳には、もうこれ以上穴をあける場所がない。かみの毛も、もうそれ以上切れないくらいに短いし、ばらばらな色をしている。それでも、それなのに、わたしはやっぱりしるしが必要で、だから刺青をいれにいこう。
刺青といえば、足首にトライバルをいれている子がいた。背が高くて、頭がちいさくて、足の長い子だった。そ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)