また どうでもいい話/佐々宝砂
 
主義者もいるにはいるが、ふつう食わねば死ぬ。食うために命を落としたら、ものすごく、切ない。どこかいい場所に住むために死んだら、それはそれで切ない。住む場所の重要さは、災害のときに認識できる。報道されているように、車中泊を続けているだけで、死ぬ人は死ぬのだ。しかし、自分の着たい服を着るために命を落としたら、びみょーにバカである(話は逸れるが私はそういうバカが好きだ)。人は、拾った服を着ても生きてゆける。気候のよい土地でなら、最悪、服がなくても生きてゆける。つまり、衣食住のうち、いちばん「どうでもいい」のは「衣」である、という結論が出そうに思うが、そうでもない。極寒の地で、衣の差異は生死を分ける。

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