白い人/佐々宝砂
 


白い人は浜辺を見つめ
見つめられることで
浜辺は姿を変える
夏から秋へ

飛び交いながら鴎たちは嘆く
生まれそこなった夏を
背後には大きな波
あれは九番目の波

白い人は微笑んでいる
軽やかな音を立てる
白い紙でできた檻が
白い人のまわりを覆っている





それでも朝の大地を照らす
赤く陰鬱に老いた太陽が
ふくれあがったその相貌を歪ませて
もういちど輝こうとする
白い人は地下の洞窟で
その輝きに身悶え
振り返る

時間は裏返り空間は逆巻き次元は歪曲し

白い人はいくたびも殺され

背中の火傷みみずばれ掌の赤い傷痕
  
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