連れて行かない/salco
。不況で駅前の店を畳むことにしたから、十二年住ん
だ貸家から知らない町へ。知らない内にいつも、外の世界は変わってい
る。
でも一人では怖くて一歩も出られないのは同じなのだ。怖いのは苦し
い。無益な焦燥や自己嫌悪も。いつになったらそこから出られるのだろ
う。それがわからないのも同じだろう。
「これとそれとこれで、二万七千円。と、それと、これだからちょうど三
万円ね?」
昨日は長話のすえ無料の盆を持ち帰り、今日も来て、持ち合せもないの
にティーセットと漆器を買い占めたこのおばさんは、家に帰ると、きっと
衝動買いを撤回するのだろう。晩ご飯を食べた後か、お風呂から上がって
寝
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