マリー/ホロウ・シカエルボク
 
歌うじゃない、「あたりはくらやみで何も見えない」って…
わたしはあれが大嫌いなのよ、くらやみで何も見えない、なんて、どうしてそんなことが言えるんだろう?何も見えてなくなんかない、くらやみがはっきり見えているのに…



そうして彼女は
泣声を上げ始めた
はじめは子供のように
それから悲鳴のように
それから小雨が降り始めた
俺は自分のジャケットを彼女にかけて
木工細工みたいな感触の肩を抱いてやった
彼女は俺のデニムの襟を命綱のように掴んで
悲鳴のように長く泣き続けた
俺は黙って彼女の肩を抱いて
彼女が泣きやむまで夜の海を見ていた
波は時々爪先まで届いて
その温度はし
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