マリー/ホロウ・シカエルボク
から落ちないように肩を抱えていると
洒落た蝋燭みたいな匂いがした
それは彼女のすべてから漂っていた
自分がどこかの店の軒先に捨てられた日のことを
覚えていると言って何度か話した
今の自分をいくぶん太らせたような若い女が
どうなろうともかまわないという調子で
自分を入れた籠をぽいと放り投げて
猫の死体を見るみたいな一瞥をくれて去って行ったって
すごく寒い日だったって
雨か雪か判らないようなものが
肺病患者の咳みたいにぽつぽつと降っていたって
施設のひとたちはわたしがどうしてそこに来たのか話してはくれなかったんだけど
あれは多分本当のことだと思う
だって一度も否
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)