【批評祭参加作品】遊びごころという本気 ー辻征夫試論ー/石川敬大
 
さかボルテージが下がっている気もするが、切り取ってきた情景に発話者の情感が添付されているところが辻の表現の特徴であり、軽妙なとぼけた味と対象との距離のとり方の絶妙さが秀逸であると思う。
 辻の作品を詩集成などで通読する時、作品の傾向に大きな変化は感じられないが、詩集によっての工夫は感じられる。その最たるものが『俳諧辻詩集』だろう。詩を書く仲間などと創めたという句会の影響なのか、春夏秋冬と全体を四つのパートに分けて各詩篇の冒頭に自作の俳句を置き、二行目から最終行までを丸括弧でくくっている。こんな感じだ。

 さみだれや酒屋の酒を二合ほど
 (雨ってのは
 見ているものだな
 傘屋の軒

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