【批評祭参加作品】遊びごころという本気 ー辻征夫試論ー/石川敬大
てきたが、辻の場合特に、生まれ育った環境と無縁ではないだろう。江戸下町の人情に篤くおせっかいで、精神的にはダンディズムの強がりで見栄っ張り、痩せ我慢など苦にならない気質。仕事っぷりはフィールド・ワークよりデスクワーク、息抜きの散歩の途上のスナップ・ショット的な詩、わたしは開き直って言い張りたい、辻征夫は下町っ子の詩人であり、その環境を甘受していた詩人であったのだと。それゆえに辻征夫は、「本気で思いつめ」た「遊びごころ」を全開放させて生きたかったのではなかったかと。
最後に、エッセイ集『かんたんな混沌』(思潮社刊)から『むきだしの悲しみ』の一部を抜粋する。「人間社会にはどうも暗黙の了解事項(略)
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(5)