【批評祭参加作品】遊びごころという本気 ー辻征夫試論ー/石川敬大
不思議な展開の詩である。自己演技で、遠くを見ていたひとを見ていたのもただの想像のシーンかもしれないのだ。この詩では何が起こるのでもなく、自己演技として感情が動き言葉が動いた、すべては辻征夫の内面の舞台での一人芝居だったのではないか。詩集『落日』の表題作『落日――対話編』で、サブタイトルにもあるように「夕日/沈みそうね/…/賭けようか/おれはあれが沈みきるまで/息をとめていられる」から始まる対話形式で書かれた詩篇もあるが、詩は内面に住む女性と対話することだってできる。もし純粋な他者と対話したとしても、他者を理解できる範囲は自分自身の理解の許容範囲内でしかない。
これまで辻征夫の詩の特徴を語ってき
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