【批評祭参加作品】遊びごころという本気 ー辻征夫試論ー/石川敬大
種肉体を失くした精神状態になって言葉(日本語の歴史の束)と一体になるのではないだろうか。永いこと詩作をつづけていると詩の正体がわかったとか、詩作の方法を掴んだように思うことがある。辻は、それをこの詩集によって掴んだのではないか。この詩集以後、多作になり『ヴェルレーヌの余白に』で高見賞、『河口眺望』で詩歌文学館賞と芸術選奨文部大臣賞、『俳諧辻詩集』で萩原朔太郎賞と現代詩花椿賞と、総なめの状態となる。しかもそれは、『かぜのひきかた』からわずかに十年以内での出来事なのだから驚異的である。『河口眺望』の表題作の前半部を次に引用してみる。
双眼鏡で遠くを見ていた
遠くには海が 海には巨大な貨物船
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