破瓜トランス/魚屋スイソ
横断歩道が続いている 長い前髪と 左眼を覆う眼帯が 踏切 ビル 標識 バス停 薄青い街の線を靡かせている 白いワンピースを纏った少女が呼吸器を外して歌い始めた 信号が変わった 包帯の端をくわえたカラスが戦闘機のようにして飛んでいくのを仰ぐ 文庫本を開く 白血球のささやきが ベッドの下でひしめいていたテキストを蒸発させ シンセサイザーに水を喰わせる 遠鳴りするストレッチャー 点滴の落ちる音 侵食してくるインクの潦に追い詰められた文字が 小さな手を伸ばしながら救いを求めているが ナースコールには届かない 冷たい融解が始まる 不誠実なタイトルが 陽をうけながら燃えるように凍えていた 点滅する青 哲学書の
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